「学びに対する学校の不干渉とは何か?それは生徒たちに教えを受ける完全な自由を与えることだ。生徒たちの”必要”に応える教えを、彼らが欲する限りにおいて与えることである。それは彼らにとって不必要な学習を強制する事ではない」
これはロシアの文豪、トルストイが、教育について残した言葉です。
トルストイはさらにこのような理想的な学校はあと100年は出来ないだろう、とも語っていました。
今回はこの”理想の学校”を体現するかのような実在の学校の紹介と、その実情をお伝えします。
きっと子供の教育のヒントが隠されています
本物の教育?サドベリーバレースクール
1968年、アメリカはマサチューセッツ州フラミンガムにその学校、「サドベリーバレースクール」は誕生しました。子どもの大きな能力を信じ、それを引き出そうという学校です。「学校」といっても、一般的な学校とは全く違う、かなり常識とはかけ離れた学校です。
サドベリーバレーに通うのは、4歳~19歳までと非常に広範囲。自然に恵まれた環境の中、子どもたちは自己責任の中、自分自身を主人公にして学校生活を送ることになるのです。
サドベリーバレーの教育方針は、アリストテレスがその著書「形而上学」に書いた「人間とは生まれつき好奇心を持つものである」という言葉をベースに、
【子どもたちは、人間の本質である生来の好奇心に突き動かされることで自分を取り巻く世界に分け入り、それを我が物としていく途方もないエクササイズを続ける努力家である】
というものです。
自由とデモクラシー(民主主義)、それがこの学校を表す言葉になります。
どんな教育をしているのか?
自由とデモクラシー。
それがこの学校そのものですが、具体的にはどのようなことをしているのでしょう?
簡単にまとめてみます
✅いわゆる授業は無い
✅子ども達は自由に自分でやることを決められる
✅子ども達は何をしていても良い
✅教師(大人)は子どもに求められた時だけ教える
✅学校の運営も子どもたちが参入する(スタッフと共同)
✅経費も足りない部分は自分たちで稼ぐこともある
※学費は公立よりも安い
授業もないので、決められた1時限、2時限みたいなものもありません。
何をするかも子どもが自分で決めます。
数年間、毎日毎日釣りだけをやり続けた子もいるそうです。
算数や数学を勉強したくなれば、教師に教師を頼みます。授業をしてもらうのです。しかし、飽きればもう出なくて構いません。結果、始めは十数人いた数学を受ける生徒も、最後は一人になってしまったこともあります。
延々と絵を描き続ける子もいます。20mもある木に登る子もいます。楽器を演奏しまくる子もいます。料理を学ぶ子もいます(料理は人気科目だそうです)。
そして、学校でやるべきこと、してはいけないことなどは、子ども達の投票で決まります。
毎週一回、会議のようなものがあり、そこで議題が出され投票が行われます。投票権は年齢に関係なく、子ども達はみんな持っています(子どもたちだけでなくスタッフと子どもの保護者も1票づつ持っています)。そこで運営や掃除方法、新しいクラブの創設、経費、ルールなどが決められます。ちなみに出席も自由。出なければ1票を使えないだけです。
学費は公立よりも安く設定してあるため、子ども達が望む物が買えない場合も多々あります。その際はいくつか方法があり、
・寄付を募る
・中古など安いものを探す
・自分達でお金を稼いで買う
・作る
などで賄っています。
お金を稼ぐとは、例えば自分でクッキーを作り、学校や近所で売ったり、何かものを安く仕入れて利益をのっけて売ったりするのです。もちろん、学校で売るには会議で賛同を得なければなりませんが
一般的な教育はしているの?
一つ断っておきますが、公私の違いはきっちりさせています。
プライベートはどうしようと自由ですが、一緒に何かをしようという時は、その約束を守らなければなりません。たまにある遠足なども参加自由ですが、時間に遅れたら置いていかれるだけです。それも「選べる」のです。
この学校でも基礎学習、つまり読み・書き・算数は行っています。
しかしやはり「自分のペースで、自分の時間に、自分のやり方で」、です。
5歳で読めるようになる子もいれば、10歳まで興味を示さない子もいます。
教師や大人から教わる子もいれば、最後まで子どもが自力で学ぶ子もいます。
教える・教わるに年齢の壁もありません。年下の子が年上の子に教えることもよくあります。共に学び合い、助け合い、育っていくのです。
さらにこの教育は恐ろしい結果を出してしまっています。
それまでほとんど算数に取り組んでこなかった9歳~12歳の子ども達が、算数を勉強したいという事になり、自分達でクラスを立ち上げ、大人に先生を頼みました。
なんとこの子たち全てが、足し算・引き算・掛け算・割り算・分数・少数・平方根まで、およそ小学校で習う算数を、わずか24週間で完全マスターしてしまったのです。
授業時間は週に2回で1回30分、これを24週。
つまりトータル24時間で全てを学んでしまったのです。
6年もかける必要があるのでしょうか・・・?
卒業後はどうなっているの?
サドベリーバレーは卒業も「自由」です。
やりたいこと、他に行きたい学校が出来たらそこで卒業です。卒業証書を貰いたい人は、自分で会議にかけ、プレゼンし、承認されれば(賛成多数を得れば)手にすることが出来ます。しかし、それもあくまで欲しい人がやることです。
中には、在学中に大工に弟子入りし、そのまま卒業してしまったという子もいます。
現代教育でも言えることですが、気になるのは、学校卒業後、子ども達が立派にやって行けているかどうか、という点です。
サドベリーバレーでも、卒業後、どんな風に生きているか、記録されています。
ひとつは進学。
つまり大学や高等教育機関に進む道。素晴らしいのはこれらを希望した子どもたちは、自らが選び・望んだことを実現するため、努力を惜しまず、結果として、「進学を希望した子が失敗をしたケースはほとんど見られない」という事実があります(稀に第一希望の大学に入れないという事もあったようです)。大学入学担当者へのインタビューによれば、サドベリーバレーでの非正統な教育はマイナスどころかプラスになっているとさえ言っています。
次に就職(仕事にすぐつく)
車の整備士、技術者、営業、芸術家、多岐に及んでいます。もちろん、会社を興した人もいます。医療関係についた人も、造園の仕事をしている人も、葬儀屋になった人もいます。
卒業生たちにこんなアンケートもしています
人生を楽しく有意義に過ごすために必要なものは?
1位 人間関係
2位 個人的な目標(の実現)
3位 情熱を持てる活動
サドベリースクールには、他の学校でいじめなどで馴染めず移ってきた子もいます。
親との関係が上手くいかず逃げるように入ってきた子もいます。
そういった人も含めてこの結果というのは、非常に意味があると思います。卒業生が前向きに人生に取り組んでいる事も伺えますね
卒業生の声
最後に卒業生の声を紹介します
私の中でもっとも暗い時期のひとつは、私が妊娠していた時期と出産後です。夫も私も失業していて経済的にも苦しかった。
夫はその後、職を得たのですが工場での12時間交代勤務。私は彼の顔を見る機会も無くなりました。(中略)私はこう思うようになりました。
「これってこのまま続いていくことなの?これが私の大人の人生なの?夫の顔さえ見ることなく、ストレスばかり増え、貧しく、壊れていくだけなの?」
私はどうしたらいいか考え始めました。そして自分にこう云い聞かせました。
「違う。私はサドベリーバレーで学んだんだ。自分自身の未来を私は自分で作れるんだ。私は今の状態を受け入れられない。私は前に進んで行くんだ」と。
私は、あるきっかけを見つけ、今の店を持てるようになりました。店をやるのも大変なことで腰が引けましたが、私はちゃんと分かっていました。それがほんとうにやりたいことなら、きっとうまくやれる、と。
ぼくがこれまで心掛けてきたのは、満足できなかったりハッピーでなかったりした時、それがいったい何なのか、ピンポイントで探し当てどうしたらいいか対策を考え出すことです。
(中略)仕事でそうなったら仕事を変えます。
しかし、自分にとってほんとうに大事なことを捨て去って、まだやりきれていないと思う時もけっこうあります。そういう時は、自分の焦点をもう一度元に戻さなくちゃならない。自分の好きなことをして、それを人生の中心に据えなくてはなりません。
サドベリーバレーでの生活が、いかにその後の人生の力になっているかが分かる言葉だと思います。
出来れば子どもには、サドベリースクールに通わせたい・・・というのが私の正直な感想です。当然、それに伴い、親自身も成長しなくてはなりませんが。
実は日本にもサドベリースクールはあります。東京、北海道、兵庫、愛知、山梨、静岡、沖縄、熊本、神奈川、鳥取など各地にあります。
近い思想(と思われる)ものででデモクラティックスクールという名の学校も各地にあります
※地域名に各学校のリンクさせています
※これらの学校が今回紹介したサドベリーバレーと同じやり方・思想であるかは解りません。ご興味ある方は問い合わせるなど、それぞれ確認してみてください
また、今回の内容は「世界一素敵な学校サドベリー・バレー物語(ダニエル・グリーンバーグ著)」を参考にしています。
非常に素晴らしい本で、教育に関心のある方は必読の一冊だと思います。
多くの子が救われ、たくさんの子が人生を輝かせている学校、サドベリーバレースクール。
時代が大きく変化し、格差が拡大していくと考えられる世の中だからこそ、教育というものを大事にしたいですね
そのために、親が勉強し、成長することが大切なのではないでしょうか?
ぜひ、参考にしてください